第38回世界遺産委員会

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第38回世界遺産委員会(だい38かいせかいいさんいいんかい)は、2014年6月15日から25日の間、カタールドーハにあるカタール・ナショナル・コンベンション・センターで開催された。アラブ諸国での開催はマラケシュモロッコ)での第23回世界遺産委員会(1999年)以来であり、西アジアでの開催は初である[注釈 1]文化遺産21件、自然遺産4件、複合遺産1件の計26件が新規登録された結果、世界遺産リスト登録物件の総数は1,007件となった。公式に1,000件目と発表された世界遺産はオカバンゴ・デルタである[1]

委員国[編集]

委員国は以下の通りである[2]。地域区分はUNESCOに従っている。

議長国 カタールの旗 カタール 議長マイヤーサ・アル・サーニー
アジア太平洋 日本の旗 日本 副議長国
インドの旗 インド
カザフスタンの旗 カザフスタン
マレーシアの旗 マレーシア
フィリピンの旗 フィリピン
大韓民国の旗 韓国
 ベトナム
アラブ諸国 アルジェリアの旗 アルジェリア 副議長国
レバノンの旗 レバノン
アフリカ セネガルの旗 セネガル 副議長国
ヨーロッパ北アメリカ ドイツの旗 ドイツ 副議長国
セルビアの旗 セルビア
クロアチアの旗 クロアチア
 フィンランド
ポーランドの旗 ポーランド
ポルトガルの旗 ポルトガル
トルコの旗 トルコ
カリブラテンアメリカ  コロンビア 副議長国。報告担当国を兼ねる。担当者はフランシスコ・グティエレス
ジャマイカの旗 ジャマイカ
ペルーの旗 ペルー

審議対象の推薦物件一覧[編集]

物件名に * 印が付いているものは既に登録されている物件の拡大登録などを示す。太字は正式登録(既存物件の拡大などについては申請用件が承認)された物件。英語名とフランス語名は諮問機関の勧告文書に基づいており[3]、登録時に名称が変更された場合にはその名称を説明文中で太字で示してある。適用基準は登録された物件のみ示す。

第38回世界遺産委員会の審議で新規に世界遺産保有国となったのは、ミャンマーのみである。その一方、2014年5月にバハマ世界遺産条約締約国に加わったため、締約191か国のうち、世界遺産を保有していない国の数は30か国で、前年と変化はない。

自然遺産[編集]

画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
ビャウォヴィエジャの森(ベラルーシとポーランドの「ベラヴェシュスカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャの森」の拡大・再推薦)*  ベラルーシ
ポーランドの旗 ポーランド
承認 承認 (9), (10)
Bialowieza Forest [Extension and renomination of “Belovezhskaya Pushcha / Białowieża Forest”, Belarus/Poland]
Fôret Bialowieza [Extension et nouvelle proposition de « Fôret Belovezhskaya Pushcha / Białowieża », Bélarus / Pologne]
この世界遺産は基準 (7) のみが適用されて1979年に登録(1992年に拡大登録)された広大な森林地帯であり、ヨーロッパバイソンをはじめとする動物たちの貴重な生息地となっている[4]。今回の拡大登録は単なる範囲の拡大ではなく、適用される登録基準を (9) と (10) のみに切り替えることを含んでいる[5]
オカバンゴ・デルタ ボツワナの旗 ボツワナ 登録 登録 (7), (9), (10)
Okavango Delta
Delta de l’Okavango
オカバンゴ・デルタはボツワナ北西部の内陸デルタで、広大な湿地帯を形成しており、自然美や生物多様性などの面から評価されている[6]。ボツワナにとっては2件目の世界遺産、自然遺産としては初となっただけでなく、1000件目の世界遺産となった。
中国南方カルスト(第二段階)(「中国南方カルスト」の拡大)* 中華人民共和国の旗 中国 承認 承認 (7), (8)
South China Karst (Phase II) [Extension of the “South China Karst”]
Karst de Chine du Sud (Phase II) [Extension du « Karst de Chine du Sud »]
第31回世界遺産委員会(2007年)で登録された石林茘波武隆カルスト地域に、新たに桂林施秉金佛山中国語版環江の各カルスト地域を加えることが申請され[7]、承認された。
ステウンス・クリント  デンマーク 登録 登録 (8)
Stevns Klint
Stevns Klint
スティーヴンス・クリントは、チクシュルーブ・クレーターを形成した隕石衝突の時期の地質学的証拠を備えた場所であるとともに、白亜紀末期の化石出土地として重要である[8]
ワッデン海(ドイツとオランダの「ワッデン海」の拡大)*  デンマーク
ドイツの旗 ドイツ
承認 承認 (8), (9), (10)
Wadden Sea [Extension of the “Wadden Sea” (Germany/Netherlands)]
La mer des Wadden [Extension de « La Mer des Wadden », Allemagne / Pays Bas]
ワッデン海はラムサール条約の登録地を含む重要な渡り鳥の生息地などであることなどから、第33回世界遺産委員会(2009年)でオランダ、ドイツ両国内の範囲が登録された[9]。今回の拡大登録は、それをデンマーク方面にも拡大するものである。
ピュイ山地リマーニュ断層の地殻運動・火山地帯 フランスの旗 フランス 不登録 情報照会
Tectono-volcanic Ensemble of the Chaine des Puys and Limagne Fault
Ensemble tectono-volcanique de la Chaîne des Puys et de la faille de Limagne
ピュイ山地(シェヌ・デ・ピュイ)とリマーニュ断層はマシフ・サントラルに位置しており、自然美と地質学的価値を理由とする推薦であったが、自然遺産の諮問機関である国際自然保護連合 (IUCN) は、いずれの価値も認めがたいとして不登録を勧告した[10]。委員会審議では情報照会決議となった[11]
大ヒマラヤ国立公園 インドの旗 インド 登録 登録 (10)
Great Himalayan National Park
Parc national du Grand Himalaya
大ヒマラヤ国立公園は、1999年にヒマラヤ山脈西部に設定された国立公園で、行政区分上はヒマーチャル・プラデーシュ州内に位置している。前年の第37回世界遺産委員会では自然美と生物多様性の面で推薦されたが、登録延期勧告を受け、情報照会決議となっていた。今回は生物多様性の面について、登録勧告が出た[12]。登録に際し、「大ヒマラヤ国立公園保護地域」となった。
ハミギタン山域野生生物保護区 フィリピンの旗 フィリピン 登録 登録 (10)
Mt. Hamiguitan Range Wildelife Sanctuary
Sanctuaire de faune et de flore sauvages de la chaîne du mont Hamiguitan
ハミギタン山域野生生物保護区はミンダナオ島にある保護区で、多数の絶滅危惧種を含んでいる生物多様性を持つ。前年の第37回世界遺産委員会では登録延期勧告を受け、情報照会決議となっていたが、今回は登録勧告が出た[13]
カットバ群島  ベトナム 不登録 ――
Cat Ba Archipelago
Archipel de Cat Ba
カットバ群島英語版は、ハロン湾(1994年登録、2000年拡大)を囲むように位置する島々で[14]生物多様性などを理由に推薦された。しかし、IUCNからはそれらの価値を否定され、むしろ自然美や地質学的価値を理由に登録されたハロン湾の拡大登録として再検討すべきことが勧告された[15]。勧告を受けて審議前に推薦が取り下げられた[16]

複合遺産[編集]

画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林(「カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市」の拡大)* メキシコの旗 メキシコ (自然)承認延期
(文化)承認延期
承認 (1), (2), (3), (4), (9), (10)
Ancient Maya City and Protected Tropical Forests of Calakmul, Campeche [Extension and renomination of the “Ancient Maya City of Calakmul, Campeche” ]
Ancienne cité maya et forêts tropicales protégées de Calakmul, Campeche [Extension et nouvelle proposition d’inscription de l’« ancienne cité maya de Calakmul, Campeche »]
カラクムルの考古遺跡は、4世紀から10世紀のマヤ文明をよく伝えるものとして2002年に登録された[17]。今回、文化的価値の強化と自然的価値の追加のために拡大を申請したのに対し、諮問機関からはいずれの証明も不十分と判断されたが[18][19]、逆転での登録を果たした。文化遺産が拡大されて複合遺産になった最初の例である。
アラビダポルトガル語版 ポルトガルの旗 ポルトガル (自然)不登録
(文化)不登録
――
Arrábida
Arrábida
アラビダは、セトゥーバル近郊の丘陵地帯で、原始林が残る[20]。また、旧石器時代以来の人類の居住跡などが残されている[21]。しかし、諮問機関からはどちらについても、世界遺産としての顕著な普遍的価値は認められないと勧告された[22][23]。勧告を受けて審議前に推薦が取り下げられた[24]
チャンアンの景観関連遺産  ベトナム (自然)登録延期
(文化)登録延期
登録 (5), (7), (8)
Trang An Landscape Complex
Complexe paysager de Trang An
チャンアンは紅河デルタに位置するカルスト地帯で、更新世後期から完新世初期の人類の活動の痕跡が残っており、推薦範囲には後の時代の古都ホアルーや宗教建造物なども含まれている[25]。文化遺産の諮問機関である国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) からは完全性と真正性の不備を指摘され、考古遺跡に絞って再考すべきことなどを勧告された[26]。IUCNは自然美や地質学的価値が認められる可能性はあるとしつつも、登録範囲を再考すべきことなどを勧告した[27]。しかし、これらの勧告を覆し、複合遺産としての登録を果たした。

文化遺産[編集]

画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
アンデスの道路網カパック・ニャン アルゼンチンの旗 アルゼンチン
ボリビアの旗 ボリビア
 チリ
 コロンビア
エクアドルの旗 エクアドル
ペルーの旗 ペルー
登録 登録 (2), (3), (4), (6)
Qhapaq Ñan, Andean Road System
Qhapaq Ñan, réseau de routes andin
カパック・ニャンはインカ帝国の道路網であり、アンデス山脈周辺の6か国による共同推薦となった。『世界遺産条約履行のための作業指針』(以下、『作業指針』)2013年版でいうところの、「遺産の道」(Heritage Route) に分類される[28]。ICOMOSは当初の構成資産291件のうち、273件については登録を勧告した[29]
大運河 中華人民共和国の旗 中国 情報照会 登録 (1), (3), (4), (6)
The Grand Canal
Le Grand Canal
「大運河」は、中国史において万里の長城と双璧をなす大規模土木事業とも位置づけられる[30]戦国時代から部分的に建設されていたが、大きく整ったのはの時代で、以降の王朝によっても整えられた。ICOMOSからはその顕著な普遍的価値を認められたが、緩衝地域設定などに関連する注文がつき、「情報照会」勧告となった[31]。委員会審議では逆転登録が認められた。
シルクロード : シルクロードの最初の区間、天山回廊の交易路網 中華人民共和国の旗 中国
カザフスタンの旗 カザフスタン
キルギスの旗 キルギス
登録 登録 (2), (3), (5), (6)
Silk Roads: Initial Section of the Silk Roads, the Routes Network of Tian-shan Corridor
Routes de la soie : section initiale des routes de la soie, le réseau de routes du corridor de Tian-shan
シルクロードのうち、中国の22遺跡、カザフスタンの8遺跡、キルギスの3遺跡を対象としており、『作業指針』2013年版でいうところの「遺産の道」に分類されている[32]。ユーラシアの交流史の画期をなした張騫と結びついていることや、その後16世紀まで経済的・文化的な交流に貢献したことなどがICOMOSからは評価された[33]。ICOMOSからは名称変更するように勧告が出されており、正式名は「シルクロード : 長安-天山回廊の交易路網」(Silk Roads: the Routes Network of Chang'an-Tianshan Corridor / Routes de la soie : le réseau de routes du corridor de Chang’an-Tian-shan) となった。
ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群 コスタリカの旗 コスタリカ 登録 登録 (3)
Precolumbian chiefdom settlements with stone spheres of the Diquís
Établissements de chefferies précolombiennes avec des sphères mégalithiques du Diquís
プンタレナス州に残る、西暦500年から1500年に形成された4か所の考古遺跡を対象としている[34]。これらは先コロンブス期の社会制度を伝えるものとして、ICOMOSから評価された[35]
大モラヴィアの遺跡群 : ミクルツィツェ英語版のスラヴ人要塞施設とコプツァニ英語版アンティオキアの聖マルガリタ聖堂  チェコ
スロバキアの旗 スロバキア
登録延期 ――
Sites of Great Moravia: The Slavonic Fortified Settlement at Mikulčice and the Church of St Margaret of Antioch at Kopčany
Sites de Grande-Moravie : l’établissement fortifié slave à Mikulčice et l’église Sainte-Marguerite d’Antioche à Kopčany
中世の大モラヴィア王国時代の文化的影響関係を伝える遺産だが、第33回世界遺産委員会(2009年)に向けて推薦されたときには不登録勧告を受けて、取り下げていた。今回、不登録勧告は免れたが、顕著な普遍的価値の証明がなされていないとして登録延期勧告にとどまり[36]、再び審議前に取り下げた[37]
ショーヴェ=ポン・ダルク洞窟とも呼ばれるアルデーシュ県ポン・ダルクの装飾洞窟 フランスの旗 フランス 登録 登録 (1), (3)
Decorated cave of Pont d’Arc, known as Grotte Chauvet-Pont d’Arc, Ardèche
Grotte ornée du Pont d’Arc, dite grotte Chauvet-Pont d’Arc, Ardèche
ショーヴェ=ポン・ダルク洞窟には、約3万年から2万年前の洞窟壁画が残っている[38]第36回世界遺産委員会(2012年)では緊急案件として推薦されたが、不登録勧告を受けて取り下げていた。今回は通常の手続きで推薦され、ICOMOSから顕著な普遍的価値を認められた[38]
コルヴァイのカロリング期ヴェストヴェルクとキウィタス ドイツの旗 ドイツ 情報照会 登録 (2), (3), (4)
Carolingian Westwork and Civitas Corvey
Westwerk carolingien et civitas de Corvey
コルヴァイ修道院は9世紀にヘクスター郊外に建てられた[39]。その修道院付属聖堂に見られるヴェストヴェルク英語版(西構え)は中世ヨーロッパの世界観の投影のために発達した様式で[40]カロリング朝時代の教会西面に見られる[41]。ICOMOSはその顕著な普遍的価値を認めたものの、管理面の不備などを指摘し、情報照会を勧告した[42]
トンゴ=テンズクのタレンシ人の文化的景観 ガーナの旗 ガーナ 登録延期 登録延期
Tongo-Tengzuk Tallensi Cultural Landscape
Paysage culturel tallensi de Tongo-Tengzuk
タレンシ人の伝統的な生活文化を伝える土の家や宗教建築などが推薦されたが、ICOMOSは価値の証明が不十分であるとして登録延期を勧告した[43]。審議では、勧告通りに登録延期決議となった勧告を受けて審議前に推薦が取り下げられた[44]
グジャラート州パータンのラーニー・キ・ヴァーヴ(王妃の階段井戸) インドの旗 インド 登録 登録 (1), (4)
Rani-ki-Vav (The Queen’s Stepwell) at Patan, Gujarat
Rani-ki-Vav (le puits à degrés de la Reine) à Patan, Gujarat
ラーニー・キ・ヴァーヴは11世紀に建設された階段井戸で、水利建築の優れた例としてだけでなく、その装飾の芸術性なども、ICOMOSからは評価された[45]
シャフリ・ソフタ イランの旗 イラン 登録延期 登録 (2), (3), (4)
Shahr-I Sokhta
Shahr-i Sokhta
シャフリ・ソフタはスィースターン・バルーチェスターン州の「焼けた町」を意味する考古遺跡である。紀元前3000年ごろからの青銅器時代4期の集落跡が出土しており、第4期の集落には火に包まれた痕跡が残る[46]。ICOMOSは価値の証明が不十分として登録延期を勧告したが[47]、逆転登録を果たした。
アルビールの城塞 イラクの旗 イラク 登録延期 登録 (4)
Erbil Citadel
Citadelle d’Erbil
アルビール(エルビル)はシュメール文明の時代にまで遡る歴史的な都市であり、その中心部にそびえるのが推薦された城塞である[48]。ICOMOSからは価値の証明が不十分として、登録延期を勧告されたが[49]、逆転登録を果たした。
ユダヤ低地にあるマレシャとベト・グヴリンの洞窟群 : 洞窟の大地の小宇宙 イスラエルの旗 イスラエル 登録 登録 (5)
Caves of Maresha and Bet-Guvrin in the Judean Lowlands as a Microcosm of the Land of the Caves
Les grottes de Maresha et de Bet-Guvrin en basse Judée, un microcosme du pays des grottes
ベトグヴリン遺跡は古代都市の遺跡で、マレシャはヘブライ語の古称である[50]第35回世界遺産委員会(2011年)では登録延期勧告が出ていたために審議前に取り下げられたが、今回は登録勧告が出て、勧告通りに登録された。
ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ=ロエーロとモンフェッラート イタリアの旗 イタリア 登録 登録 (3), (5)
The Vineyard Landscape of Piedmont: Langhe-Roero and Monferrato
Le paysage viticole du Piémont : Langhe-Roero et Monferrato
登録名の通り、アスティのワイン産地などのブドウ栽培に関する文化的景観だが、第36回世界遺産委員会(2012年)では勧告、決議とも「登録延期」であった。今回の世界遺産委員会では、ICOMOSから登録勧告が出された。イタリアにとって50件目の世界遺産である。
富岡製糸場と絹産業遺産群 日本の旗 日本 登録 登録 (2), (4)
Tomioka Silk Mill and Related Sites
Filature de soie de Tomioka et sites associés
日本初の本格的な器械製糸工場である富岡製糸場と関連する養蚕業関連の文化財(田島弥平旧宅高山社跡荒船風穴)は、日本の近代化に貢献しただけでなく、絹産業の技術革新や絹の大量生産に関わり、国際的に影響を及ぼした[51]。日本のいわゆる近代化遺産の中では、最初に推薦された物件である。
ムランジェ山の文化的景観 マラウイの旗 マラウイ 登録延期 登録延期
Mount Mulanje Cultural Landscape
Paysage culturel du mont Mulanje
ムランジェ山にはムランジェ山森林保護区が設定されており、暫定リストに当初記載された時点では生物多様性を理由とする自然遺産候補としての記載だったが、のちに地元民の精神的な営みにとって伝統的に重要だった文化的景観としての記載に切り替えられた[52]。しかし、ICOMOSからは証明が不十分として登録延期を勧告され[53]、勧告通りに登録延期となった[54]
ピュー族の古代都市群 ミャンマーの旗 ミャンマー 登録延期 登録 (2), (3), (4)
Pyu Ancient Cities
Anciennes cités pyu
この物件は、エーヤワディー川流域で9世紀ころまで栄えたピュー族の古代都市群 (Pyu city-states) の3遺跡を対象としている[55]。ICOMOSからは価値の証明の不十分さなどを理由として、登録延期が勧告されたが[56]、逆転で登録され、ミャンマー初の世界遺産となった。
ファン・ネレ工場 オランダの旗 オランダ 登録 登録 (2), (4)
Van Nellefabriek
Usine Van Nelle
ファン・ネレ工場は1920年代ロッテルダムに建てられたタバコ紅茶などの製造工場で、機能主義建築として評価が高い[57]。20世紀前半の傑出した産業建築として国際的な影響力も大きかったことなどから、ICOMOSから登録を勧告された[58]
南漢山城 大韓民国の旗 韓国 登録 登録 (2), (4)
Namhansanseong
Namhansanseong
南漢山城は、古くは7世紀に建てられた防衛施設で、17世紀の大規模なものを含め、時代ごとに改築された[59]。ICOMOSは17世紀東アジアの防衛建築の優れた例証などであることを評価し、登録を勧告した[60]
ボルガルの歴史的考古学的遺産群 ロシアの旗 ロシア 登録 登録 (2), (6)
Bolgar Historical and Archaeological Complex
L’ensemble historique et archéologique de Bolgar
ボルガルは第24回(2000年)、第25回(2001年)に登録勧告を受けながら、委員会審議では登録が見送られた。争点になったのは遺跡復原のあり方で、第37回では逆にICOMOSが不登録勧告に転じたのに対し、委員会が情報照会と決議していた[61]。今回はICOMOSが登録勧告に戻った(ただし、適用された登録基準は異なる)[62]
メッカの玄関にあたる歴史都市ジッダ サウジアラビアの旗 サウジアラビア 登録延期 登録 (2), (4), (6)
Historic Jeddah, the Gate to Makkah
Ville historique de Djeddah, la porte de La Mecque
メッカにも近い港町ジッダは交易で栄えた歴史を持つが、第35回世界遺産委員会(2011年)では不登録勧告を受け、取り下げていた。今回の推薦でも、価値の証明が不十分であるなどとして、登録延期勧告にとどまった[63]
バリェ・サラド・デ・アニャナの文化的景観 スペインの旗 スペイン 不登録 ――
Cultural Landscape of Valle Salado de Añana
Paysage culturel de Valle Salado de Añana
バスク自治州のバリェ・サラド・デ・アニャナ(「アニャナの塩辛い谷」)は、新石器時代から鉱泉を利用した製塩業が営まれてきた場所である[64]。20世紀にほぼ放棄された後、21世紀になって大幅に再建されたが、ICOMOSはその内容について完全性と真正性を十分に認められないことなどを理由に、不登録を勧告した[65]。勧告を受けて審議前に推薦が取り下げられた[66]
ハエン大聖堂スペイン語版(「ウベダとバエサのルネサンス様式の記念碑的建造物群」の拡大)* スペインの旗 スペイン 不承認 ――
Jaén Cathedral [Extension of the “Renaissance Monumental Ensemble of Ubeda and Baeza”]
Cathédrale de Jaén [Extension des « Ensembles monumentaux Renaissance de Úbeda et Baeza »]
ウベダバエサに残るルネサンス様式の地区(2003年登録)の形成に貢献した一人がアンドレス・デ・バンデルビラスペイン語版であり、彼が改築を手がけたハエンの大聖堂を加えることが提案された[67]。これは第35回世界遺産委員会で「軽微な変更」の申請をして認められなかったため、拡大登録として再申請されたものである[67]。しかし、ICOMOSは、登録理由の強化にハエン大聖堂がどう寄与するのかの証明がなされていないことなどを理由に不承認を勧告した[68]。勧告を受けて審議前に推薦が取り下げられた[69]
シルクロード : パンジケント-サマルカンド-ポイケント英語版回廊 タジキスタンの旗 タジキスタン
ウズベキスタンの旗 ウズベキスタン
登録延期 情報照会
Silk Roads: Penjikent-Samarkand-Poykent Corridor
Routes de la soie : corridor de Pendjikent-Samarkand-Poykent
シルクロードのうち、中央アジアの交易路の12遺跡が推薦されたもので、『作業指針』2013年版でいうところの「遺産の道」に分類される[70]。ICOMOSは価値の証明の不十分さなどを理由に登録延期を勧告した[71]。審議では情報照会となった[72]
オスマン帝国発祥の地ブルサジュマルクズク英語版 トルコの旗 トルコ 登録延期 登録 (1), (2), (3), (4), (6)
Bursa and Cumalıkızık: the Birth of the Ottoman Empire
Bursa et Cumalıkızık : la naissance de l’Empire ottoman
オスマン帝国最初の首都ブルサの歴史的建造物や、それを支えた後背地の農村ジュマルクズクを対象とする推薦である[73]。ICOMOSからは、オスマン帝国黎明期から19世紀に至るまでのブルサの発展に絞って再構成するよう勧告されたが[74]、委員会審議ではジュマルクズクも含めた逆転登録が認められた。
ペルガモンとその重層的な文化的景観 トルコの旗 トルコ 登録延期 登録 (1), (2), (3), (4), (6)
Pergamon and its Multi-Layered Cultural Landscape
Pergame et son paysage culturel à multiples strates
ペルガモンは、紀元前3世紀にペルガモン王国の首都として栄えた古代都市の遺跡である。近隣には現在の都市ベルガマや、ローマ帝国ビザンツ帝国オスマン帝国などに属した各時代の遺跡なども残る[75]。ICOMOSは全体が世界遺産としての価値を持つことを否定しつつ、ヘレニズム時代および古代ローマ時代の遺跡に絞れば、顕著な普遍的価値を認めうることを指摘したが[76]、委員会審議では全体の価値が認められ、逆転での登録を果たした。
ホール・ドゥバイ(ドバイ・クリーク アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦 不登録 登録延期
Khor Dubai (Dubai Creek)
Khor Dubaï (crique de Dubaï)
ドバイ・クリークは古くから地域の交易において重要な役割を果たし、文化交流にも貢献した[77]。しかし、ICOMOSは地域的重要性は認めたが、世界遺産としての顕著な普遍的価値を認めるには至らないとして不登録を勧告した[78]。審議では不登録を免れ、登録延期となった[79]
ポヴァティ・ポイント英語版の記念碑的土構造物群 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 登録延期 登録 (3)
Monumental Earthworks of Poverty Point
Tertres monumentaux de Poverty Point
ポヴァティ・ポイントはルイジアナ州に残るアメリカ先住民の遺跡で、紀元前1000年以前の数百年間、狩猟採集民が居住や祭礼の場として使っていたと考えられている[80]。ICOMOSはその顕著な普遍的価値を認めたが、保護管理面の課題を挙げ、登録延期を勧告した[81]。委員会審議では逆転登録が認められた。
バロツェ英語版の文化的景観 ザンビアの旗 ザンビア 登録延期 情報照会
Barotse Cultural Landscape
Paysage culturel barotse
バロツェはザンベジ川流域の氾濫原で、ロジ人が伝統的な生活を営んでいる[82]。伝統行事クオンボカ祭りと結びつく地域などが推薦されたが、ICOMOSからは価値の証明の不十分さなどを指摘され、登録延期を勧告された[83]。審議では情報照会決議となった[84]

緊急案件[編集]

画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
オリーブとワインの地パレスチナ - エルサレム地方南部バティールの文化的景観 パレスチナの旗 パレスチナ 不登録 登録 (4), (5)
Palestine: Land of Olives and Vines – Cultural Landscape of Southern Jerusalem, Battir
Palestine : pays d’olives et de vignes – Paysage culturel du sud de Jérusalem, Battir
バティールに広がる文化的景観は、世界遺産としての顕著な普遍的価値を認められたものの、緊急性は認められないとして、緊急案件としては不登録が勧告された[85]。しかし、委員会審議では緊急性が認められ、逆転で登録されるとともに危機遺産リストにも加えられた[86]パレスチナの世界遺産では2件目だが、2件連続で緊急案件での登録・危機遺産への同時登録となった。

危機遺産[編集]

リストからの除去[編集]

リストへの追加[編集]

  • セルース猟獣保護区(タンザニア)
  • ポトシ市街(ボリビア)
  • オリーブとワインの地パレスチナ - エルサレム地方南部バティールの文化的景観(パレスチナ)

名称変更[編集]

3件の名称変更が申請され、認められた。

旧登録名 新登録名
 スウェーデン
ヴァールベリの無線局 ヴァールベリのグリメトン無線局
Varberg Radio Station Grimeton Radio Station, Varberg
Station radio Varberg Station radio Grimeton, Varberg
 スウェーデン
ルレオのガンメルスタードの教会村 ルレオのガンメルスタードの教会街
Church Village of Gammelstad, Luleå Church Town of Gammelstad, Luleå
Village-église de Gammelstad, Luleå Ville-église de Gammelstad, Luleå
マルタの旗 マルタ
ハル・サフリエニの地下墳墓 ハル・サフリエニの地下墳墓
Hal Saflieni Hypogeum Ħal Saflieni Hypogeum
Hypogée de Hal Safliéni Ħal Saflieni Hypogeum

その他の議題[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 第35回世界遺産委員会は当初バーレーンで開催予定だったが、2011年バーレーン騒乱によって会場変更となった。

出典[編集]

  1. ^ Twenty six new properties added to World Heritage List at Doha meeting
  2. ^ 以下のリストのうち、個別に出典が記載されていない情報は38th session of the Committee世界遺産センター、2014年5月1日閲覧)に基づく。
  3. ^ World Heritage Centre 2014a
  4. ^ 世界遺産検定事務局 2012b, p. 271
  5. ^ World Heritage Centre 2014a, pp. 13–15
  6. ^ World Heritage Centre 2014a, pp. 5–7
  7. ^ World Heritage Centre 2014a, pp. 8–11
  8. ^ World Heritage Centre 2014a, pp. 11–13
  9. ^ World Heritage Centre 2014a, p. 269
  10. ^ IUCN 2009, pp. 68, 72–73
  11. ^ World Heritage Centre 2014b, pp. 171–172
  12. ^ IUCN 2014b, pp. 8–9
  13. ^ IUCN 2014b, pp. 17–18
  14. ^ 「ハロン湾」『コンサイス外国地名事典』第3版、三省堂、1997年
  15. ^ IUCN 2014a, pp. 38–39
  16. ^ World Heritage Centre 2014b, p. 160
  17. ^ 世界遺産検定事務局 2012b, p. 284
  18. ^ ICOMOS 2009a, p. 49
  19. ^ IUCN 2014a, pp. 117–118
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参考文献[編集]

外部リンク[編集]